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大阪地方裁判所 平成8年(ワ)969号 判決

原告

廷々彰夫

被告

河西英材

主文

一  本訴被告河西英材は本訴原告廷々彰夫に対し、金七四万六〇〇〇円及びこれに対する平成七年九月一一日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  本訴原告廷々彰夫のその余の請求を棄却する。

三  反訴被告廷々彰夫は反訴原告河西英材に対し、金一〇万九五八八円及びこれに対する平成七年九月一一日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  反訴原告河西英材のその余の請求を棄却する。

五  訴訟費用は本訴、反訴を通じ、これを二分し、その一を本訴原告(反訴被告)廷々彰夫の、その余を本訴被告(反訴原告)河西英材の負担とする。

六  この判決は第一、第三項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  本訴関係

被告は原告に対し、金一六〇万七六七七円及びこれに対する平成七年九月一一日(事故日)から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  反訴関係

反訴被告は反訴原告に対し、金三七万九七九八円及びこれに対する平成七年九月一一日(事故日)から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、交差点における原動機付自転車と普通乗用自動車の衝突事故に関し、普通乗用自動車の保有者兼運転者である廷々彰夫(以下「原告廷々」という)が、原動機付自転車の運転者である河西英材(以下「被告河西」という)に対し民法七〇九条に基づき物損の賠償を求め(本訴)、逆に被告河西が原告廷々に対して、自動車損害賠償保障法三条、民法七〇九条に基づき人損及び物損の賠償を求めた(反訴)事案である。

一  争いのない事実

1  事故の発生

(一) 日時 平成七年九月一一日午後四時五分頃

(二) 場所 兵庫県芦屋市宮塚町三番四号先路上、国道二号線

(三) 関係車両 第一車両 原告廷々運転の普通乗用自動車(和泉三五て五二六二号、以下「原告車」という) 第二車両 被告河西運転の原動機付自転車(神戸長ぬ八一五四号、以下「被告車」という。)

(四) 事故態様 交差点において原告車と被告車が衝突した(以下「本件事故」という)。

2  損害の填補

被告河西は、自賠責保険から六万六四〇〇円を受け取つている。

二  争点

1  本件事故態様、過失相殺

(原告廷々の主張の要旨)

原告廷々は原告車を運転して、本件事故現場交差点の手前から左折の合図を出したうえで、交差点を左折しようとしたが、横断歩道上に横断する歩行者がいたため、原告車を停止させ歩行者が横断するのを待つていたところ、停車後四秒ほど時間が経過したとき、左後方から直進してきた被告車が原告車の左側面に衝突した。

したがつて、被告河西には前方不注視、ブレーキ操作不適切の過失があるのに対し、原告廷々には過失がなく、本件事故は被告河西の一方的過失によるものである。仮にそうでないとしても大半の責任は被告河西にあるから、大幅な過失相殺がなされるべきである。

(被告河西の主張の要旨)

交差点で左折を開始するに当たつては、路側帯付近を走行してくる原動機付自転車等があることを予測し、巻き込み事故を防止をするために、あらかじめ道路左側に寄り、方向指示器を出し、後部の安全を確認の後左折すべきであるのに、原告廷々は漫然と後続車の進路を塞ぐ形で左折したことによつて本件事故を起こしたものであり、被告河西に過失があるとしても、九割以上の責任は原告廷々にある。

2  原告廷々の損害

(原告廷々の主張の要旨)

(一) 修理代金 一二四万七六七七円

(二) 代車料 二一万円

(三) 弁護士費用 一五万円

よつて、原告廷々は(一)ないし(三)の合計一六〇万七六七七円及びこれに対する本件事故日から支払済みまでの遅延損害金の支払を求める。

3  被告河西の損害

(被告河西の主張の要旨)

(一) 治療費及び文書費 二万四八一二円

(二) 傷害慰謝料 二五万円

(三) 修理代 一二万七一六四円

(四) ヘルメツト 九八〇〇円

(五) 上着、ズボン代 一万四〇〇〇円

(六) 弁護士費用 七万円

よつて、被告河西は(一)ないし(六)の合計四九万五七七六円に原告廷々の過失割合九割を乗じた四四万六一九八円から損害填補額六万六四〇〇円を差し引いた三七万九七九八円及びこれに対する本件事故日から支払済みまでの遅延損害金の支払を求める。

第三争点に対する判断

一  争点1(本件事故態様、過失相殺)について

1  認定事実

証拠(甲二ないし四、六、検甲一ないし一三、原告廷々本人、被告河西本人)によれば次の各事実を認めることができる。

(一) 本件事故は、別紙図面のように、両側に歩道のある片側二車線の市街地を東西に延びる道路(以下「第一道路」という)と、それに南北に交差する道路(以下「第二道路」という)によつてできた信号機のある十字型交差点(以下「本件交差点」という)の南詰めで起きたものである。第一道路の交通量は頻繁である。

第二道路の幅員は交差点南において、約七メートル(以下のメートル表示はいずれも約である)である。

(二) 原告廷々は時速三〇ないし四〇キロメートルで第一道路の左側車線を西進してきて、対面青信号で、本件交差点を左折すべく、本件交差点の東詰め停止線の一〇メートル手前で時速約一五キロメートルに減速し、左折合図を出しながら左折しようとしたが、交差点南詰め横断歩道を東に向かう歩行者を認めて、別紙図面〈ア〉(以下符号だけで示す)において停止した後、第一道路の左側車線の左端を、〈1〉から〈2〉に進行してきた被告車と衝突した。原告廷々は、右衝突時まで被告車の存在に気づいていない。

(三) 他方被告河西は、右前方を走行している原告車の動静に注意を払わずに走行したところ、〈1〉において、前方九メートルの〈ア〉に原告車が停止しているのに気づき、急制動をかけたが及ばず、〈2〉において、原告車と衝突し、被告河西は〈3〉に転倒した。

(四) 原告車は、本件事故によつて、左側前部(左前ドア付近)が破損した。

2  右認定事実の補足説明

原告廷々は要旨「本件交差点の停止線の手前で時速一五キロメートル程度に減速し、左折の合図を出して歩行者の横断を待つべく、停止していたが、停止後四秒くらいを経て被告車に衝突された。」と供述し、他方被告河西は大要「自分は交差点の手前で被告車とほぼ同速度で、五メートル先を進行している原告車の存在を認めていたが、原告車が突然左折の合図も出さずに左折を開始したので急制動をかけたが及ばず、衝突した。」旨述べる。

よつて、検討するに、原告廷々は事故後の実況見分時において歩行者の存在を既に指摘しており、その内容は首尾一貫しており、道路状況、事故態様、実況見分時の指示説明部分とも矛盾点はない。また、事故状況のみならず、事故後の被告河西とのやりとり、実況見分時の様子にわたりその供述内容は比較的明確である。基本的にその供述は採用できるが、停止後、衝突に至るまで四秒を経ていたという点は確たる根拠に基づくものでなく、この点だけは採用できない。

他方、被告河西の供述が正しいとすると、原告車は交差点手前で全く減速しないで左折を開始したということになるが、これは前記道路状況から考えて想定しにくい事柄である。また、実況見分時においては、被告河西は危険を感じた際の原告車及び被告車の位置、自らの転倒位置を指示しているにも拘わらず、原告車の位置を指示していないとするなど供述内容が曖昧であり、その信用力は原告廷々に比べて劣るものといえる。したがつて、原告車の走行状況、原告車の左折合図の有無に関する被告河西の供述は採用できない。

3  過失相殺についての判断

1の認定事実によれば、原告廷々は第一車線左端を走行してくる単車の存在に充分な注意を払わず、道路端に寄らないで左折しようとした過失がある。しかし、被告河西が原告車の動静に注意を払つておれば本件事故は容易に避けることができたもので、その不注視の程度は大きく、直進車対左折車の事故であり、しかも原動機付自転車対自動車の事故で少なくとも人損に関しては被告河西の要保護性が強いことを考えても、その過失割合は五割に及ぶと認められる。

二  争点2 (原告廷々の損害)

1  修理代金 一二四万七〇〇〇円(主張一二四万七六七七円)

証拠(甲二、五、原告廷々本人)によれば、原告廷々所有の原告車の修理代として右金額を要したことが認められる。

2  代車料 一〇万五〇〇〇円(主張二一万円)

証拠(甲二、五、原告廷々本人)によれば、原告廷々は、宝石販売の業務に原告車(ベンツ)を使用していたところ、修理中の七日間、代車としてベンツを使用し、代車代として二一万円を支払つたことが認められる。しかし、現在原告は同じ職業に就きながら国産車を使用していること(原告廷々本人)から考えると、日額の代車代金が三万円に及ぶ高級車を借用しなければいけない必要性を見いだしがたく、一日当たり一万五〇〇〇円、総計一〇万五〇〇〇円が本件事故と相当因果関係のある代車代と認める。

三  争点3(被告河西の損害)

1  治療費・文書費 二万四八一二円(主張同額)

証拠(乙一ないし五、被告河西本人)によれば、被告河西は本件事故により、外傷性頸部症候群、右肩鎖骨関節捻挫、右下腿打撲、頸部・右手・両膝打撲の傷害を負い、事故日である平成七年九月一一日から同年一〇月二〇日まで若草第一病院に通院し(実通院日数八日)、治療を受けたこと、右治療費として一万七六〇二円、文書費として七二一〇円の合計二万四八一二円を要したことが認められる。

2  傷害慰謝料 一八万円(主張 二五万円)

被告河西の傷害の部位・内容・程度、通院期間・状況の他、本件事故により被告河西が衣服等に損傷を負つたことなどの事情を考慮して、右金額をもつて慰謝するのが相当である。

3  修理代 一二万七一六四円(主張同額)

証拠(乙六、被告河西本人)によれば、被告車の修理代として右金額を要したことが認められる。

4  ヘルメツト (主張九八〇〇円)、上着、ズボン代 (主張 一万四〇〇〇円)

証拠(原告廷々本人、被告河西本人)によれば、これらが本件事故によつて損壊したことは認められるが、その時価が明確でないため、慰謝料算定の一要素として考慮するにとどめる。

第四賠償額の算定

一  本訴について

1  第三の二において認定した原告廷々の損害額一三五万二〇〇〇円に第三の一で認定した被告河西の過失割合五割を乗じると、六七万六〇〇〇円(一三五万二〇〇〇円×〇・五)となる。

2  右金額、事案の難易、請求額その他諸般の事情を考慮して、相当弁護士費用は七万円と認める。

3  1、2の合計は七四万六〇〇〇円である。

よつて、原告の被告に対する請求は、右金額及びこれに対する本件事故日である平成七年九月一一日から支払い済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由がある。

二  反訴について

1  第三の三において認定した被告河西の損害額三三万一九七六円に第三の一で認定した原告廷々の過失割合五割を乗じると、一六万五九八八円(三三万一九七六円×〇・五)となる。

2  1から第二の一の2の損害填補額六万六四〇〇円を差し引くと九万九五八八円となる。

3  右金額、事案の難易、請求額その他諸般の事情を考慮して、相当弁護士費用は一万円と認める。

4  2、3の合計は一〇万九五八八円である。

よつて、反訴原告の反訴被告に対する請求は、右金額及びこれに対する本件事故日である平成七年九月一一日から支払い済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由がある。

(裁判官 樋口英明)

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